おっさんは戦争映画と文庫本が餌

裏町徘徊中年のガード下壁新聞

総合格闘技版「ロッキー」+αのロシア映画「ヴァーサス」

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 DVDで『ヴァーサス』。2016年ロシア映画。監督・ヌルベク・エーゲン。劇場未公開、日本版DVD発売17年。

 面白い。総合格闘技版「ロッキー」をカーチェイスの薄皮でサンドしたオッサン好みの単純娯楽映画。序盤のカーチェイスは中盤の格闘家の葛藤・復活シークエンスの伏線になっている。祖国愛や正義をふりかざすのではなく(いや、多少はふりかざしているが)、けっこうビッチな美女をめぐっていい歳の男がみみっちい鞘当ての果てに大変なことになり、どう考えても全員破滅という何も考えてないのか皮肉的なのかよくわからない結末も不謹慎で私的には大変よろしい湯加減。男性観客としての本音を無神経に言ってしまえば、主人公と悪役を天秤にかけるヒロインが諸事件の根源にあって、主人公も敵役もそれなりに“持ってる”男なのだから別に女を作ればいいだけなのに、そうはできない魔性があるのか。岡目八目で見てトラブルのもとになる余計なことばかりしてる女を諌めるでもなく、男たちはみんな童貞の初恋みたいなピュアな心理で動いている。高校生じゃないんだからさ、大人ならもっと自由に女遊びしろ、女なんていっぱいいるんだからと苦笑しながら見ていた。この程度の映画が気楽で良いのだが、近年はそういう作品すらない。日本映画なんかは特に。映画というフィクションなのにの夫婦生活を大切にしてどうすると切に思う。

 主人公の格闘技シーンはよく頑張っている。まあ普通なら試合できないシビアな状況だがそこは映画だから仕方ない。序盤はオクタゴン、クライマックスはリングでオープンフィンガー着用のMMA。相手役は00年代に何度も来日してるメルヴィン・マヌーフ。2016年の映画だが、まだ体はしっかり作れている感じで強そうには見える。

 私は本作で敵役を演じるアントン・シャギンという中居正広みたいなバブル男にとくに魅力を感じた。モヤシ系の坊っちゃんだが、利己的な極悪人というわけでもなく、主人公の格闘家の莫大な手術代を出世払いで出してやったり、アホな女たらしだが、つきあった女には純粋な愛を捧げて無責任なヤリチンというわけでもない。暴力もふるうが、それは女が別の男になびきそうな時だ。ギャンブル好きな性格も私には共感しやすい要素だったし、本物の極道にうまくあしらわれているのも可愛い(というかバカなのだ)。こういう中途半端な悪役は私にとって理想的な男性像だ。敵役が魅力的に描かれている映画が私にとっては良い映画だ。敵役の造形が魅力的なほど、ボンクラでも主人公は光る。本作はその典型的なものだ。

 中居正広もこういう役ができれば俳優として成功するかもしれない。ぜひ研究してほしいと言ったところで届かないだろうけど。

http://ヴァーサス https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07KRJR6P4/ref=cm_sw_tw_r_pv_wb_JRvBt70t5hEhN